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そのAI自動化、
パソコンが1台壊れたら止まりませんか
AI自動化は、壊れたときに戻せて初めて会社の仕組みになります。
AI自動化を進めていくと、会社の中に少しずつ「AIが動くための仕組み」が蓄積されていきます。
たとえば、
- AIエージェントの設定
- プロンプト
- 自動処理プログラム
- API連携の設定
- 定期処理のスクリプト
- 各種マニュアル
- データベース
- 設定ファイル
- 業務フローの定義
などです。
これらは、一度失うと作り直すのが非常に大変です。
場合によっては、業務そのものが止まります。
AI自動化を本気で進めるなら、「どう作るか」だけではなく、「壊れたときにどう戻すか」まで考えておく必要があります。
まず、何を失うと困るのかを書き出す
いきなり機械を買う前に、やることがあります。
いま何が、どこにあるのかを一覧にすることです。
これをやると、たいてい「守っているつもりだったのに、実は1か所にしかないもの」が出てきます。
よくあるのは、
- クラウド(GitHubなど)に上げたつもりのプログラムが、実は手元のパソコンにしか無かった
- 大事な設定ファイルが、デスクトップに置きっぱなしだった
- 前任者のパソコンにしか無いファイルがある
といったものです。
一覧を作らずにバックアップを始めると、「バックアップは動いているのに、肝心のものが入っていない」という状態になります。
これが一番こわい失敗です。
紙に書き出すだけでも構いません。守る対象を決めることが、バックアップの最初の作業です。
何を選べばいいか迷う場合は、姉妹編の AIエージェント時代のバックアップ入門 に、棚卸しをAIにやらせるための依頼文をそのまま貼れる形で置いています。
まず考えるべき不測の事態
一番わかりやすいのは、AIの構築データが入っているメインPCの故障です。
パソコンは普通に壊れます。
SSDが故障することもありますし、Windowsが起動しなくなることもあります。
もし、
「AI自動化のプログラムも設定も全部このPCにしかない」
という状態なら、そのパソコンが壊れた瞬間に業務が止まります。
これはかなり危険です。
そこで、AI関連の重要データは、パソコンだけに置かず、会社の共有ファイルサーバーやNASにも保存しておきます。
メインPCが壊れても、
「新しいPCを用意して、共有ファイルサーバーからデータを戻せば復旧できる」
という状態にしておくのが基本です。
NASやファイルサーバーはRAIDで守る
会社の共有データを保存するなら、NASは非常に便利です。
NASは簡単に言えば、社内ネットワーク上に置く共有ハードディスクのようなものです。
複数のPCからアクセスできるため、AI自動化の構築データを一元管理するのにも向いています。
さらにNASでは、RAIDを組むことができます。
たとえばRAID1なら、2台のHDDに同じデータを書き込みます。
片方のHDDが壊れても、もう片方にデータが残っているため、そのまま復旧できます。
つまり、
という二段構えになります。
ここまでやるだけでも、単一のPCにしかデータがない状態と比べれば、かなり安全です。
なお、同じ時期に買った同じ製品のHDDは、壊れる時期も近くなりがちです。 1台壊れて交換したあと、残った1台からデータを書き写している最中に、その1台も壊れる、ということが実際に起こります。
RAIDは「1台壊れても慌てずに済む仕組み」であって、「壊れても大丈夫な仕組み」ではありません。
ただしRAIDはバックアップではない
ここは重要です。
RAIDを組んだからといって、バックアップが完成したわけではありません。
RAIDが強いのは、基本的に「HDDの故障」です。
一方で、次のような事故には弱いです。
- ファイルを間違えて削除した
- 上書きしてしまった
- ランサムウェアに感染した
- NASそのものが故障した
- 管理者アカウントを乗っ取られた
- NAS内のデータをまとめて暗号化された
たとえばRAID1の場合、片方のHDDのデータを削除すると、もう片方からも同じように消えます。
ランサムウェアで暗号化された場合も同じです。
RAIDは、
「壊れにくくする仕組み」であって、「昔の状態に戻す仕組み」ではありません。
この違いは理解しておいた方がいいです。
そこで2台目のNASか外付けHDDにバックアップする
次の対策が、NASとは別の場所へのバックアップです。
たとえば、
という構成にします。
または、外付けHDDに定期バックアップしても構いません。
できれば、
- 昨日の状態
- 1週間前
- 1か月前
といった形で、複数世代を残せるバックアップにします。
たとえば「毎日の分を7回分、毎週の分を4回分、毎月の分を6回分」といった残し方です。 これで、何か問題が起きても「正常だった時点まで戻す」ことができます。
世代を残す期間は、「おかしくなったことに、何日後に気づくか」で決めます。
毎日見ているデータなら1週間分で足ります。 月に一度しか見ないデータを7日分しか残していないと、気づいたときには正常な状態がもう残っていません。
「同期」と「バックアップ」は別物
ここは間違えている会社がとても多いところです。
同期は、片方の変更をもう片方に写す仕組みです。
消したことも、そのまま写します。
これでは、誤操作やランサムウェア対策としてまったく役に立ちません。
「毎晩バックアップしています」と言っている会社の中身を見ると、実際は同期だった、というのはよくあります。
同期ソフトを使うこと自体は問題ありません。ただし、バックアップ用に使うなら、必ず次の2つを確認してください。
- 削除を写さない設定になっているか
メイン側で消したものを、バックアップ側では消さない - 上書きしたとき、前の内容が残るか
残らないなら、それは世代バックアップではありません
この設定を確認しないまま動かすと、 「バックアップを実行した瞬間に、バックアップ側の大量のファイルが消える」 という事故が起きます。
一番安全なのは、初回だけ「削除はしない」設定で流し、何件消えるはずだったのかを先に確認することです。
ランサムウェア対策も考える
AI自動化を進めると、パソコンやサーバー同士をつなぐ機会が増えます。
便利になる一方で、ひとつのPCが感染したときに、共有フォルダまで巻き込まれる可能性もあります。
そのため、バックアップ用NASは、普段社員が自由にアクセスできない状態にしておく方が安全です。
理想は、
という構成です。
ランサムウェアは、「見える場所」「書き込める場所」を攻撃します。
そのため、バックアップ先を普段の業務から切り離しておくことが重要です。
コツは、データを「送りつける」のではなく「取りに行く」形にすることです。
- 送りつける形(メインPCが、バックアップNASへ書き込みに行く)だと、メインPCが乗っ取られた時点で、バックアップNASにも書き込めてしまいます。
- 取りに行く形(バックアップNASが、決まった時刻にメインからコピーしてくる)にしておけば、メイン側が乗っ取られてもバックアップ側は触られません。
外付けHDDを使う場合は、もっと簡単です。
バックアップが終わったらケーブルを抜いておく。
これだけで、つながっていない間は絶対に暗号化されません。 月に1回、これを2台で入れ替えるだけでも、かなり強い備えになります。
最後に残るリスクは「会社ごと全滅」
ここまで対策しても、まだ弱点があります。
それが災害です。
たとえば、
- 火災
- 落雷
- 水害
- 地震
- 盗難
などです。
会社に、メインPC・NAS・バックアップNAS・外付けHDDを全部置いていた場合、 会社そのものが被害を受けると全部失う可能性があります。
このリスクに対して必要なのが、クラウドバックアップです。
最終バックアップはクラウドへ
会社の外にデータを置いておけば、社内の機器がすべて壊れてもデータは残ります。
たとえば、
という構成です。
これなら、
| 起きたこと | どこから戻すか |
|---|---|
| PCが故障した | NASから戻す |
| NASが故障した | 2台目のNASから戻す |
| ランサムウェアに遭った | 世代バックアップから戻す |
| 会社全体が被災した | クラウドから戻す |
という形になります。
ここまでやれば、かなり強いバックアップ体制になります。
ひとつだけ注意点があります。上の図のように数珠つなぎにすると、 途中でおかしくなったデータが、そのまま先へ流れていきます。
可能なら、クラウドへのバックアップは、NAS経由ではなく元のデータから直接取るようにしてください。
クラウド同期サービスは「クラウドバックアップ」ではない
「うちはGoogleドライブに入れているから大丈夫」という会社は多いです。
ですが、Googleドライブ・OneDrive・Dropboxなどは、基本的に同期サービスです。
手元のファイルがランサムウェアに暗号化されると、その「暗号化されたファイル」がクラウド側にも同期されます。
手元で消せば、クラウドからも消えます。
使ってはいけない、という話ではありません。使うなら、次の2つを必ず確認してください。
- 過去のバージョンが何日分残るのか
サービスと契約プランによって違います。確認せずに「たぶん残る」で運用しないでください - 全ファイルをまとめて元の日付に戻す機能があるか
1ファイルずつ手作業で戻すのは、数千ファイルでは現実的ではありません
この2つが確認できないなら、それは保管場所であってバックアップではありません。
別途、バックアップ専用のサービス(世代を残すことが目的の有料サービス)を用意してください。
AI自動化のデータは、フォルダのコピーだけでは戻らない
ここからがAI自動化ならではの話です。
「大事なフォルダを丸ごとコピーしているから大丈夫」と思っていても、 AI関連は特に抜けやすい場所があります。
1名前が「.」で始まる隠しフォルダ
AIツールや開発ツールの設定は、.claude・.env・.ssh のように、名前がドットで始まるフォルダ・ファイルに入っていることが多いです。
同期ソフトやバックアップソフトは、これらを初期設定で対象外にしていることがあります。
自分の目で、バックアップ先に実際に入っているかを確かめてください。
2APIキーやパスワードを書いたファイル
これらは、安全のためにわざとバックアップ対象から外していることがあります。外すこと自体は正しい判断です。
ただし、では、どこに置くのかを決めていないと、そこだけ復旧できません。(この扱いは後述します)
3「毎晩○時に動かす」という予約そのもの
Windowsのタスクスケジューラや、サーバーの定期実行の登録は、ファイルではありません。 フォルダをコピーしても復旧しません。
新しいPCにデータを戻しても、自動処理が一つも動かないという状態になります。
登録内容を書き出して、テキストとして保存しておいてください。
4データベース
データベースは、動いている最中にファイルをそのままコピーすると、壊れた状態でコピーされます。戻したときに開けません。
データベース専用の書き出し(バックアップ用のファイルを作る操作)が必要です。
5クラウド側にしか無い設定
AIサービスの管理画面で作った設定は、自分のPCの中にはありません。アカウントが止まれば一緒に消えます。
画面のコピーでも構わないので、社内に控えを残してください。
戻せることを試していないバックアップは、バックアップではない
この記事で一番お伝えしたいのはここです。
バックアップは、取ることが目的ではありません。戻すことが目的です。
そして、取れているように見えて戻せないバックアップは、本当によくあります。
- 処理は「成功」と表示されているが、中身が空だった
- 圧縮ファイルが壊れていて、開けなかった
- 対象フォルダの指定が間違っていて、別の場所を保存し続けていた
これらは、戻そうとした日まで気づきません。 そして、戻そうとする日は、たいてい一番困っている日です。
だから、次のことを必ずやってください。
年に1回でいいので、実際に「別のパソコンに戻してみる」。
全部でなくて構いません。「バックアップから取り出して、そのファイルがちゃんと開くか」を確かめるだけでも、まったく違います。
これができて初めて、その仕組みはバックアップと呼べます。
鍵とパスワードは、バックアップの「中」に入れない
もうひとつ、実際にやってみないと気づかない落とし穴があります。
バックアップを暗号化するのは正しい判断です。 ですが、その暗号を解く鍵を、バックアップの中にしか置いていないと、永久に開けられません。
同じことが、こういう形でも起こります。
- バックアップ先のサーバーに入るためのパスワードが、そのサーバーの中にしか無い
- 復旧手順書をNASに置いていて、NASが壊れると読めない
復旧に必要なものは、復旧対象と同じ場所に置かない。
鍵・パスワード・手順書だけは、必ず別の場所(別のクラウド、あるいは紙で金庫)にも持っておいてください。
鍵の保管先の決め方と、実際の復元テストのやり方は AIエージェント時代のバックアップ入門 に、そのまま貼れる依頼文つきで書いています。
バックアップは、静かに止まる
もうひとつ、これも実際に多い事故です。
バックアップは、壊れるときに音を立てません。
- 保存先のディスクがいっぱいになった
- パスワードの有効期限が切れた
- パソコンを買い替えたときに、設定が引き継がれていなかった
こうなっても、エラーが誰にも届かなければ、半年間ずっと止まったままになります。 そして、必要になった日に初めて気づきます。
対策はひとつです。
「成功したこと」を、毎日誰かに知らせる。
失敗したときだけ通知する設定は、一見スマートですが危険です。 通知の仕組みごと止まったとき、何も鳴らないので正常に見えてしまうからです。
毎朝メールやチャットに「昨晩のバックアップ:成功/◯件/◯GB」と1行届くようにしてください。
その1行が来なかった日が、異常です。
見張り役をバックアップ本体とは別に置く理由と、その作り方は AIエージェント時代のバックアップ入門 に書いています。
復旧手順書を、作った人以外が読める形で残す
バックアップがあっても、戻し方を知っている人がその日いなければ、業務は止まります。
A4で1枚か2枚で構いません。
- バックアップはどこにあるか
- 誰に聞けば入れるか(アカウント・鍵の所在)
- どういう順番で戻すか
- 戻したあと、何が動いていればOKか
これを、システムに詳しくない社員が読んでも分かる言葉で書いて、社外にも1部置いておいてください。
一番戻せないのは、プログラムではなく「なぜそう決めたか」
ここまで機械の話をしてきましたが、最後に一番大事なことを。
プログラムやプロンプトは、最悪の場合、もう一度AIに書かせることができます。時間はかかりますが、作り直せます。
作り直せないのは、「なぜその仕様にしたのか」という判断の履歴です。
- なぜこの処理だけ人間の確認を残したのか
- なぜこの条件を除外したのか
- 過去にどんな失敗をして、この形になったのか
これは誰かの頭の中にあるだけで、どこにも書かれていないことが多いです。
そして、失うと二度と戻りません。同じ失敗をもう一度やって学び直すしかなくなります。
決めたことは、決めた日に、理由つきで1行残す。
これも立派なバックアップです。しかも、お金がかかりません。
おすすめの構成
AI自動化を会社の重要インフラとして使うなら、最低でも次の構成をおすすめします。
考え方は昔から「3-2-1」と言われています。
データは3つ持つ/2種類の違う置き場所に/うち1つは社外に。
具体的には、こうなります。
- メインPCだけに重要データを置かない
- NASやファイルサーバーに保存する
- NASはRAIDでHDD故障に備える
- 別のNASまたは外付けHDDへ「世代を残して」バックアップする(同期ではない)
- バックアップ先は普段の業務ネットワークからできるだけ切り離す
- 最重要データはクラウドにも保存する
- 年に1回、実際に戻してみる
- 毎日「成功した」という連絡が届くようにする
- 鍵・パスワード・復旧手順書は、バックアップとは別の場所にも置く
つまり、「1か所に保存する」のではなく、
「壊れても、消えても、災害が起きても戻せる」
状態を作っておくことが重要です。
まず今週やること
全部を一度にやる必要はありません。お金をかけずに今週できて、効果が大きいのは次の3つです。
- 一覧を作る(30分)
AI関連で失うと困るものを紙に書き出す - 1か所コピーを作る(1時間)
そのうち一番大事なものを、いま使っていない外付けHDDに手でコピーする - 1つだけ戻してみる(5分)
そのコピーから1ファイル取り出して、ちゃんと開くか確かめる
機械を買うのは、そのあとで構いません。
「1か所にしかない」状態を今週なくすことが、どんな高価な装置よりも効きます。
おわりに
AI自動化は、一度作ると業務に深く入り込んでいきます。
便利になればなるほど、止まったときの影響も大きくなります。
だからこそ、AIを作ることと同じくらい、「AIを復旧できる状態にしておくこと」が重要です。
AI自動化は、作って終わりではありません。
壊れたときに戻せて、初めて会社の仕組みになります。
この記事は、いまのあなたに合っていましたか
ボタンについては、お名前を取っていません。同じ方が二重に数えられないようにするためだけに記録が残ります。