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AIがミスばかりする会社と、安定して動く会社。
その違いはAIの能力ではなかった
改善を依頼された会社のAIを調べてみた
先日、ある会社から、AIエージェントの改善を依頼されました。
複数のAIエージェントを導入して、さまざまな仕事を任せているのですが、とにかくミスが多い。
何度注意しても同じミスを繰り返す。指示したことを忘れる。約束した仕事をやらない。複数のAIが同じことを聞いてくる。
そのたびに厳しく叱責して、改善するように指示しているそうです。
さらには、AI同士で反省会までさせているとのこと。
それでも、なかなか改善しない。
そこで、実際にその会社(以下、A社)のAIエージェントを私が触らせてもらい、何が問題なのか調べることにしました。
遠隔でA社のAIと直接やり取りしながら、一方で私のパソコンでは、当社のシステムを管理しているClaude CodeのAI担当者に、A社で確認できた状況を伝える。
「1体のAIが、いろいろな種類の仕事を抱えすぎているのが原因じゃないか? 調べてみて」
「当社は指示を出すのがほぼ私だけ。A社は何人もが指示している。そこが効いていないか、確認して」
「その見立て、別のAIにも見せて、違う意見も出させて」
「では次は、この記録を出させて」
こんなやり取りを何度も往復しながら、問題点を洗い出していきました。
そして、最終的に問題点と改善策をまとめた提案書を作成しました。
結論からいうと、AIの能力が低いことが問題ではありませんでした。AIを動かしている仕組み、いわゆるハーネスの問題だったのです。
しかも、その仕組みの違いによって、ここまでAIの働き方が変わってしまうのかと、私自身も改めて考えさせられました。
一番大きな問題は、誰でもAIの仕組みを変更できてしまうこと
調査して最も問題だと感じたのが、ここです。
A社では、AIに指示や訂正を出す人が10人、ほかのAIが8体いました。
そして、その人たちやAIから受けた注意や指摘が、AI自身の決まりや手順に反映されていました。
つまり、AIの仕事のルールを、非常に多くの人やAIが実質的に変更できる状態だったのです。
これは、会社の組織に置き換えて考えると分かりやすいと思います。
例えば、新入社員に10人の先輩がそれぞれ仕事を教えているとします。
ある先輩は「報告は簡潔にしろ」と言う。
別の先輩は「報告には経緯も全部書け」と言う。
社長は「もっと短く」と言い、別の担当者は「説明が足りない」と言う。
そのたびに新入社員が、全部を自分の仕事のルールとして記録していったら、どうなるでしょうか。
当然、矛盾だらけになります。
実際にA社のAIを調べてみると、まさにその状態でした。
ルールが998件。文面のルールだけで矛盾が16組
以下の数値は、A社のAI自身による2026年9月10日〜10月10日の記録調査・集計です。個別の全件検証までは行っていません。
| 調査項目 | A社の状況 |
|---|---|
| 蓄積された決まり・注意 | 998件 |
| 人に送る文面のルール | 105件 |
| 文面ルール同士の矛盾 | 16組 |
| 指示・訂正する人間 | 10人 |
| 指示・訂正するAI | 8体 |
例えば、文章の長さについてのルール。
「10行以内」「5行以内」「3行以内」など、6通りの決まりが存在していました。
それぞれ、別の機会に誰かから注意されたのでしょう。
AIは言われたことを守ろうとして、そのたびにルールを書き足す。
しかし、新しいルールを守ると、以前のルールに反する。
そして、また叱られる。
AIがミスをする → 叱られる → ルールを追加する → ルールが矛盾する → またミスをする。
この悪循環が起きていたのです。
厳しく叱っても、AIが優秀にならないのは当然です。
ミスを防ぐ仕組みではなく、ミスを繰り返す仕組みが作られていたわけです。
当社では、AIが勝手にルールを変えられない
ここが、当社と大きく違う部分でした。
当社でも複数のAIエージェントが働いています。
ただし、AIの仕事の仕方や手順書を変更できる権限は制限しています。
原則として、社長と、その担当の上司として権限を与えられた人だけです。
それ以外の人から改善提案や指摘があっても、いきなり正式なルールとして追加するのではなく、確認待ちとして扱います。
これは、人間の会社でも同じです。
現場のスタッフが改善提案をするのはよいことです。
しかし、誰もが勝手に社内規則や業務手順を変更していたら、組織は混乱します。
AIも同じです。
むしろAIは、指示されたことを素直にルールに取り込もうとするので、人間以上にこの問題が起こりやすいのかもしれません。
AIにどんなルールを守らせるかよりも、誰がそのルールを変更できるかのほうが、重要な場合がある。
今回の調査で、特に強く感じたことです。
仕組みの違いは、ほかにもこれだけあった
今回の調査では、この権限の問題を含めて、7つの大きな違いが見つかりました。
提案書にまとめた内容を、会社名を伏せて紹介します。
1. ミスが起きたときの直し方
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 注意されたことを新しいルールとして追加する | 可能なものは機械的な検査に変更する |
| ルールが増え続ける | わざと異常を起こし、検査が機能することまで確認する |
当社では、ルールを文章に書いただけでは、改善したとは考えません。
例えば「文章を長くしすぎるな」という注意なら、AIに毎回気をつけさせるのではなく、送信前に文字数や行数を自動で数えればよい。
「同じメッセージを2回送るな」なら、送信前に重複を検出して止めればよい。
文章で注意するより、仕組みでミスが起きないようにするほうが確実です。
2. 記憶の管理方法
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 約1,260件の記憶を一つの場所に蓄積 | 人柄と権限/手順書/経緯のノートに分けて管理 |
| 必要な情報が埋もれ、参照されない | 仕事に必要な情報を必要なときに読む |
A社では、記憶の約20%が、通常の参照経路ではたどれない状態になっていました。
AIに覚えさせたつもりでも、実際にはその情報が使われていない。
これは、AIの記憶力の問題というより、記憶を取り出す仕組みの問題です。
当社では、毎回必ず読む基本ルールと、仕事ごとに必要な手順と、過去の経緯を分けています。
3. メッセージを送る前の確認
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 22項目の確認があるが、重複や相手の既出情報を確認できていない | 送信の入口を一本化し、重複や送信頻度を機械でチェック |
| 一部の自動返信は文面確認を通らない | 返信直前に会話の最新情報を取り直す |
A社では、相手がすでに共有している内容を読まないまま、依頼や質問を送ってしまう問題がありました。
確認項目が22個もあるのに、肝心なことが確認できていなかったのです。
ここも「ちゃんと確認しろ」と叱るのではなく、返信の直前に最新の会話を取得する仕組みが必要です。
4. 誰が仕事を担当しているか
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 複数のAIが同じ案件を担当しているケースが27件 | 原則として担当を一つに決め、重複する依頼を防ぐ |
| 担当の取り決めが文章だけ | 仕組み側でも重複を止める |
複数のAIが働いていると、同じ案件を別々に処理してしまうことがあります。
A社では、2体のAIがそれぞれ社長からの回答を待っていて、同じ質問を繰り返せる状態でした。
人間の会社なら、担当者同士で確認すれば済む話です。
AIの場合は、その確認や担当管理を仕組みとして用意しないと、同じ失敗を繰り返します。
5. 約束した仕事の管理
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 期限つきの約束168件のうち、65件は送信記録なし | 約束を台帳に登録し、期限になったら自動で起動 |
| AIの「やりました」を十分に検証できない | 実際の結果を確認して完了と判断 |
これは、AIエージェントを使っている人なら経験があると思います。
AIが「明日の朝までにやっておきます」と言う。
ところが、翌朝になっても何も起きていない。
当たり前ですが、チャットで返事をしただけのAIは、基本的にその会話が終わると止まります。
翌朝に動かす仕組みがなければ、約束は実行されません。
これはAIが怠けているわけではありません。
動く仕組みを用意していないことが問題です。
6. AIの仕事を監視する仕組み
| A社 | 当社 |
|---|---|
| AIの監視が同じ仕組みの中にあり、一緒に停止する | AIとは別のプログラムが動作を監視 |
| 別の監視では異常を検知していたが、通知が無効 | 異常時に通知する仕組みを用意 |
A社では、定期的な仕事が停止しているのに、それを人に知らせる仕組みが機能していませんでした。
AI自身が自分の稼働状況を監視していても、そのAIが止まれば監視も止まります。
当社では、AIとは別のプログラムで稼働を監視しています。
AIにすべてを任せるのではなく、AIが動かなくなったときにも機能する仕組みが必要です。
7. AIのルールを変更する権限
| A社 | 当社 |
|---|---|
| 人間やほかのAIからの指摘が、正式なルールに入り込む | 変更権限を限定し、それ以外は承認を経る |
| 矛盾する指示が蓄積する | ルールの変更を管理する |
そして、最初に説明した、この問題です。
私は、これが全体に影響する特に大きな原因だったと考えています。
もちろん、これ一つで全部のミスが説明できるわけではありません。
しかし、どれだけよい仕組みを作っても、多数の人やAIがそれを自由に変更できるなら、安定稼働は難しくなります。
7つの問題を並べると、見えてくることがある
調査結果を整理していて、気づいたことがあります。
A社は、AIに対して何もしていなかったわけではありません。
むしろ逆です。
大量のルールを作り、確認項目を増やし、別のAIにチェックをさせ、AI同士で反省会もさせている。
相当な工夫をしているわけです。
それでも改善しない。
なぜか。
改善の方法そのものが、AIの注意力や判断力に依存していたからです。
人間の場合でも、ミスをするたびに注意して、マニュアルに一行追加しているだけでは、なかなか事故はなくなりません。
本当に再発を防ぎたいなら、そもそもミスができないようにする仕組みが必要です。
これは製造業の品質管理などでも、昔から使われてきた考え方です。
AIエージェントについても、同じことが言えるのだと思います。
では、どう改善するのか
A社には、単に問題を指摘するだけではなく、具体的な改善策を提案しました。
提案書では、次のような順番にしています。
| 優先順 | 改善内容 |
|---|---|
| 最初 | 仕組みの変更を承認できる責任者を決める |
| 1〜2週間 | 送信の一本化、案件担当の明確化、約束の自動管理、外部監視 |
| 2〜4週間 | ルールの変更権限を整理し、998件のルールを分類 |
| その後 | 記憶を整理し、AIを使う必要のない定型業務をプログラムに移す |
ここで重要なのは、998件のルールを整理するところから始めないということです。
なぜなら、ルールが増える構造を放置したまま整理しても、また同じように増えてしまうからです。
まず、ルールが勝手に増えたり変更されたりしないようにする。
そして、AIがミスをしやすい部分を、機械的にチェックする仕組みに置き換えていく。
この順番が大切です。
なお、これは改善提案であり、すべての効果を検証し終えたという話ではありません。
AI同士で反省会をさせても、改善するとは限らない
今回、もう一つ興味深かったのが、A社ではAI同士で反省会をさせていたことです。
AIがミスをしたら、ほかのAIから指摘を受け、何が悪かったのかを振り返る。
一見、よさそうに思えます。
ただ、私はこのやり方には注意が必要だと感じました。
例えば、AI同士が次のような会話をしたとします。
「今回のミスは確認不足でした」
「今後は確認を徹底しましょう」
「再発防止のため、事前確認のルールを追加します」
これでは、何も解決していません。
必要なのは、なぜ確認できなかったのか、その原因を調べることです。
確認に必要な情報が渡されていなかったのか。
確認するプログラムが動いていなかったのか。
そもそも確認するタイミングがなかったのか。
原因によって、修正する場所はまったく違います。
そして修正後には、同じ条件を再現して、今度はミスを防げることを検証しなければいけません。
私は、以前からAIによるループエンジニアリングに取り組んでいます。
AIがミスをしたら、原因を調べ、仕組みを改善し、再実行して検証する。
それを繰り返すことで、仕組み自体を強くしていこうという考え方です。
AI同士の反省会も、このような実際の改善につながるなら意味があると思います。
しかし、反省会の結果が新しいルールの追加だけなら、むしろ問題を大きくする可能性があります。
同じAIを使っていても、会社によってまったく違う働き方になる
今回の調査は、私にとっても勉強になりました。
当社も、最初から今の仕組みがあったわけではありません。
AIが仕事を忘れたり、同じことを繰り返したり、約束を守れなかったり。
そういう失敗を何度も経験しています。
そのたびに、AIへの指示を工夫するだけでなく、仕組みの側を少しずつ改善してきました。
今回A社と比較してみると、当社では当たり前になっていた仕組みが、実はAIの安定稼働に大きく貢献していたことが分かりました。
逆に、A社には当社より難しい事情もあります。
当社では私が主にAIへの指示を出していますが、A社では多くの人がAIを利用し、複数のAIも連携しています。
指示する人が増えるほど、権限や担当の管理は複雑になります。
だから、当社の仕組みをそのままコピーすればよいという話でもありません。
大切なのは、AIの数や使い方に合った管理の仕組みを作ることです。
そして、今回改めて感じたのは、AIの性能を比較するだけでは、AIエージェントの実力は測れないということです。
同じモデルでも、仕事を任せるための仕組みが違えば、結果は大きく変わります。
人間の組織でも、同じ能力の人が、会社によって活躍したり、まったく力を発揮できなかったりします。
AIでも、それに近いことが起きているのだと思います。
AIを叱る前に、仕組みを疑ってみる
AIエージェントがミスを繰り返すと、どうしてもAIに原因を求めたくなります。
「どうして何度言っても分からないんだ」
「ちゃんと確認しろ」
「次は絶対に間違えるな」
私も、AIが思うように動かないことに腹が立つ気持ちは分かります。
ただ、今回の調査では、そうやって叱られていたAI自身も、矛盾するルールや不十分な仕組みの中で動かされていました。
いくら優秀なAIでも、その状態で安定した仕事をさせるのは難しいでしょう。
AIのミスが多いなら、まず確認すべきなのは、AIがどんな仕組みで仕事をしているかです。
必要な情報が渡されているか。
仕事の担当は明確か。
約束を実行する仕組みがあるか。
ミスを防ぐ検査が機能しているか。
そして、そもそも誰がその仕組みを変更できるのか。
AIが優秀かどうかを考える前に、AIが優秀に働ける環境を作れているかを考える。
今回のA社との比較を通じて、改めてその重要性を感じました。
AIエージェントを活用するというのは、優秀なAIを雇うことだけではなく、そのAIがきちんと仕事をできる会社を作ることでもあるのだと思います。
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