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その差100倍?
AI時代の仕事力
AIに合う性格・考え方から、新人教育と採用を考える
最近、AIを使って仕事をしていて、仕事力について考えることがあります。AIを使えば、誰でも仕事ができるようになる。そんなイメージがありますが、自分の実感は少し違います。
AIが自分の仕事力を底上げしてくれるというより、もともと持っている経験や能力を何倍にも増幅してくれる。
そんな感覚です。
実際、自分はAIによって仕事力が大きく上がったと感じています。
一方、まわりの友人や経営者仲間を見ていると、AIをうまく使って仕事力を伸ばしている人と、そうでない人に、かなり分かれている印象があります。
同じようなAIを使っているのに、なぜそこまで差が出るのか。
そこを考えていくと、今後の新人教育や採用について、なかなか難しい問題が見えてきました。
AI時代の仕事力は「経験×AI倍率」
自分の考えるAI時代の仕事力を、簡単な計算式にしてみました。
仕事力 = 経験 × AI倍率
例えば、自分がこれまで積んできた経験を10点満点で10点とします。
そして、自分が育ててきたAIによって仕事の能力が10倍になるとすると、
経験10 × AI倍率10 = 仕事力100
一方、経験のない新人の場合はどうでしょうか。
経験が1点、AIも使い慣れていないので倍率が1倍だとすると、
経験1 × AI倍率1 = 仕事力1
経験者が100、新人が1。
その差、なんと100倍です。
もちろん、これは実際に仕事力を数値化したものではなく、考え方を説明するための仮説です。自分の仕事力が本当に100あると言いたいわけではありません。
ここでいう経験とは、単なる勤続年数ではありません。
成功や失敗から得た知識、仕事の勘所、何が正しく何が間違っているかを判断できる能力、そうしたものの蓄積です。
また、AI倍率には、AIモデルそのものの能力だけでなく、使う人の指示の出し方、AIに与えている情報、仕事を実行する仕組み、過去の改善の蓄積なども含めています。
自分の場合、EC事業を長年やってきたので、商品、広告、売上、利益、システム、業務改善など、ある程度の経験があります。
その経験をもとにAIへ仕事を任せ、出来上がったものを確認し、おかしなところを修正させることができます。
AIの提案が間違っていれば、間違っていると判断できる。
もっとよいやり方があれば、改善を指示できる。
そうしてAIを育てていくことで、さらに仕事力が上がっていく。
この繰り返しです。
AIが仕事をする能力と、AIに仕事をさせる能力は別物なのです。
ただし、新人ほどAIの恩恵が大きいという研究もある
ここは自分の仮説と少し違う話です。
2025年に学術誌で発表された約5,200人の顧客サポート担当者を対象とした研究では、AIの導入によって平均生産性が15%向上しました。
しかも、経験の浅い人やスキルの低い人ほど効果が大きく、熟練者への効果は限定的でした。
つまり、AIが新人の能力不足を補ってくれることもあるわけです。
ただ、この研究で使われたAIは、仕事の進め方を支援するタイプです。
自分がやっているように、AIエージェントへ仕事を丸ごと任せる使い方とは少し違います。
例えば、顧客からの問い合わせに回答する仕事なら、AIが適切な回答を提案してくれることで、新人でも一定水準の対応ができます。
一方、来月の広告予算をどう配分するか、どの商品を強化するか、利益をどう改善するかといった仕事では、AIの提案を最終的に判断する能力が必要です。
AIが立派な改善案を作ってくれても、それが正しいのか判断できなければ、安心して任せられません。
自分の掛け算の考え方は、特にこうした判断を伴う仕事に当てはまるのだと思います。
AI時代は、新人に厳しい時代になるのではないか
ここからが問題です。
経験者は、自分の経験にAIを掛け合わせることで、仕事力を大きく伸ばせます。
しかし、新人にはその経験がありません。
AIに仕事を任せることはできても、出来上がったものが正しいのか判断できない。
しかも、仕事の多くがAIに置き換われば、企業は経験者とAIを組み合わせた方が効率的だと考えるようになるかもしれません。
実際、米国では気になる研究結果も出ています。
スタンフォード大学の研究チームが2026年8月に公表した分析では、AIの影響を受けやすい職種における22〜25歳の雇用は、影響の小さい職種の同年代と同じペースで推移した場合と比べ、約19%低い水準でした。
経験者には同様の雇用格差が見られず、若手の新規採用が減っている可能性が示されています。
ただし、AIが原因だと証明されたわけではなく、米国の雇用データに基づく分析です。経済全体で大量の雇用が失われているという結果でもありません。
それでも、今後を考えるうえでは気になる数字です。
自分の仕事力をAIによって増幅できる経験者が重宝される一方、新人が採用されにくくなる。
そんな時代が来る可能性があります。
では、新人はどうやって経験を積むのか
ここが今回、一番考えたい問題です。
従来、新人は簡単な仕事から覚えていきました。
EC事業でいえば、商品登録、画像加工、商品説明文の作成、データ集計、広告レポートの作成など。
そうした仕事を繰り返し、失敗し、先輩に教えてもらいながら経験を積んできました。
ところが、今はどうでしょうか。
これらの仕事の多くをAIに任せられるようになっています。
うちでも、既存業務をAIエージェントに任せていくことを基本方針にしています。
人間の手間をなくすために、AIの仕組みを作っているわけです。
そうなると、新人に経験を積ませるためだけに、AIができる仕事をわざわざ人間に戻すのか。
それでは何のためのAI化なのかわかりません。
しかし、仕事を全部AIに任せてしまえば、新人が経験を積む機会もなくなってしまいます。
つまり、こんな矛盾が生まれます。
AI時代は経験の価値が高まるのに、その経験を積むための仕事をAIが奪ってしまう。
実際、AIが学習に与える影響についても興味深い研究があります。
Anthropicが2026年に発表した52人のソフトウェア開発者を対象とする実験では、AIを利用したグループの理解度テストの平均点が50%、AIを使わなかったグループは67%でした。
一方、AIに説明を求めたり、自分の理解を深めるために質問したりした人は、比較的高い理解度を示していました。
小規模な実験であり、長期的な能力への影響まで証明されたわけではありません。
それでも、重要なことを示していると思います。
AIを使って仕事が完成することと、人間が仕事を覚えることは、まったく別なのです。
仕事はAIがやってくれる。
でも、本人の能力は上がっていない。
これでは、いつまでたっても先ほどの計算式の「経験」が増えません。
新人には、仕事を作らせる前に採点させる
では、どうやって新人を育てるのか。
一つの方法として考えているのが、AIの仕事を評価する訓練です。
例えば、楽天市場の販売戦略を学んでもらうとします。
最初から新人に販売戦略を考えさせるのではなく、AIに過去の販売データを分析させ、改善案を作らせます。
新人には、その改善案を見て、どこが正しく、どこが間違っているのか考えてもらいます。
ただし、経験のない新人に、いきなり正誤を判断しろと言っても無理があります。
そこで、最初は過去の実績や、経験者が判断した事例を教材にします。
実際にはどの商品が売れたのか。
利益はいくら残ったのか。
広告費を増やした判断は正しかったのか。
答えが分かっている事例を使い、新人の判断と比較します。
その後、徐々に難しい案件へ進めていく。
そして、判断する能力が身についてきたら、実際にAIへ仕事を任せる側に回ってもらう。
つまり、仕事を実行する経験ではなく、仕事の良し悪しを判断する経験を積ませるという考え方です。
もちろん、商品や顧客を知ること、現場を経験することも大切です。画面の中だけで判断力が身につくとは思いません。
ただ、これまでと同じように作業を繰り返させる以外にも、経験を積む方法はあるのではないでしょうか。
新人教育AIエージェントを作る
ここまで考えて、もう一つ思いついたことがあります。
新人を教育すること自体も、AIエージェントに任せられないか。
うちでは、業務ごとにAI担当者を配置しています。
それぞれのAI担当者が、会社の情報、業務マニュアル、過去の仕事の記録などを参照して仕事を進める仕組みです。
だったら、このAI担当者に新人教育も任せればいいのではないでしょうか。
例えば、広告担当のAIエージェントに、新人教育モードを持たせます。
普段は広告分析や改善提案を行っているAIが、新人に対しては先生になります。
過去の広告データから問題を出す。
新人が回答したら、その理由を聞く。
間違っていたら、すぐに答えを教えるのではなく、ヒントを出す。
最後に実際の結果や判断基準と照らし合わせ、解説する。
そして、何を理解していて、どこが弱いのか記録する。
弱い部分は繰り返し学習し、理解できた分野から実際の業務を任せていく。
これなら、人間が毎回教育する必要はありません。
AIが実務を行いながら、同時に新人教育も担当できる可能性があります。
ただし、AIの採点や解説も間違う可能性があるため、教材には過去の実績や検証済みの判断基準を使う必要があります。重要な評価については、経験者による抜き取り確認も必要でしょう。
また、単にAIの問題に正解できるだけでは不十分なので、実際の業務での判断結果も評価する仕組みにしたいところです。
現在、この新人教育AIエージェントは構想段階ですが、うちの既存のAI担当者を活用すれば、実現できる部分は多そうです。
AI時代は、どんな人を採用すべきなのか
新人教育を考える一方で、そもそも採用する人材の基準も変わってくると思います。
これまでなら、Excelが使える、Photoshopが使える、広告運用の経験がある、といった能力を評価してきました。
もちろん、こうした知識や経験は今後も役立ちます。
ただ、作業の多くをAIが担当するなら、人間には別の能力が求められます。
では、どんな人がAIをうまく使えるのでしょうか。
自分のまわりの経営者仲間を見ていても、AIを積極的に活用している人と、なかなか活用できない人に分かれています。
この違いは、単なるITスキルの差ではないように感じます。
そこで、自分自身の性格や仕事の進め方をAIに分析してもらいました。
自分はAIとの相性がよかったと感じているので、その理由を深掘りすれば、AI時代に採用すべき人材の特徴も見えてくるのではないかと考えたわけです。
なぜ自分はAIとの相性がよかったのか
AIに過去の自分の発言や性格を分析してもらうと、いくつか特徴が出てきました。
まず、自分は現状にあまり満足しません。
もっとよいやり方はないか、もっと効率化できないか、ということをよく考えます。
AIに仕事を任せても、一度完成したら終わりではなく、もっとよくできないか考えてしまいます。
次に、AIの回答をあまり鵜呑みにしません。
おかしいと思ったら指摘しますし、自分の考えが間違っている可能性も考えます。
実際、今の自分のAIの仕組みが正しいのか自信がないので、他社の仕組みと比較したり、別のAIに意見を聞いたりすることもあります。
そして、とりあえず試してみることが多い。
失敗したら、原因を調べて直せばいいという考え方です。
ただし、AIに「次から気をつけます」と言わせても意味がありません。
失敗した原因を調べ、同じことが起きない仕組みに変える。
そうやって少しずつ改善することが重要だと考えています。
もう一つ、自分は仕事のやり方そのものには、あまり執着がありません。
今まで自分でやっていた仕事でも、AIに任せられるなら任せたい。
自分で作業することより、仕事がうまく回る仕組みを考える方が好きなのです。
こうして考えると、AIとの相性がよかった理由は、ITに詳しいということ以上に、任せ方と疑い方、そして改善し続ける性格にあったのかもしれません。
自分の苦手なことが、ちょうどAIの得意なことだった
さらに面白い指摘がありました。
自分の強みがAIと合っていたというだけでなく、自分の苦手なことが、ちょうどAIの得意なことだったのではないかという話です。
自分は、同じ作業を継続したり、細かな管理を続けたり、人を時間をかけて育てたりすることが、あまり得意ではありません。
実際、人材育成では何度も苦労してきました。
一方、AIなら何度でも修正をお願いできます。
人間のように疲れたり、感情的になったりすることもありません。
何度やり直しを求めても、人間関係が悪くなる心配はありません。
もちろん、AIには間違いや利用コスト、仕組みの維持管理など、別の問題があります。
それでも、自分にとっては非常に仕事を任せやすい相手だったわけです。
自分がAIの扱いに特別優れていたというより、自分の性格とAIの特性が、うまく噛み合ったという見方ができそうです。
そして、これは採用についても重要な発見です。
従来なら欠点として評価されていた部分を、AIが補ってくれる可能性があるからです。
例えば、企画力は高いけれど、実行や継続が苦手な人。
問題を見つけるのは得意だけれど、技術的な作業が苦手な人。
こうした人材も、AIによって大きな仕事力を発揮できるかもしれません。
欠点の少ない優等生を探すことだけが、正しい採用ではなくなる気がしています。
ただし、自分に似た人ばかりを採用すればよいとも思いません。
組織には、正確に仕事を続けられる人、現場の細かな変化に気づける人、人との関係を築ける人も必要です。
AIとの相性だけでなく、お互いの強みを補い合える組織にすることも大切だと思います。
採用では、AIを使わせてみればいい
ここまで考えると、今後は採用面接の方法も変える必要がありそうです。
「AIを使えますか?」
と質問しても、あまり意味がありません。
AIについて詳しく話せることと、AIを使って仕事ができることは違うからです。
だったら、実際にAIを使って仕事をしてもらえばいい。
例えば、45分程度の実技テストを考えています。
最初の10分で、ECの販売データを見て問題を発見してもらう。
次の15分で、AIを自由に使って改善案を作ってもらう。
その後の10分で、AIの回答を検証してもらう。
最後の10分で、何を考え、何を信用し、何を疑ったのか説明してもらう。
AIの回答には、あらかじめ一見正しそうな間違いを含めておきます。
例えば、売上は伸びているけれど、広告費を差し引くと利益が残っていない商品を、AIが強化商品として提案しているようなケースです。
その間違いに気づけるか。
数字を確認できるか。
AIに間違いを指摘できるか。
そして、改善案を作り直せるか。
こうしたところを評価します。
AIに慣れていない人でも、最初に練習時間を設ければよいと思います。
見たいのは、AIの操作技術ではありません。
AIを使って、問題を見つけ、考え、判断できるか。
ここです。
さらに、分からないことを分からないと言えるかも重要です。
AIの回答を理解できていないのに、分かったふりをして仕事を進められると困ります。
もちろん、このテスト一回ですべてが分かるわけではありません。
ただ、従来の面接だけでは見えなかった能力を確認できるのではないでしょうか。
AI時代の採用と新人教育は、セットで考えなければならない
最初の計算式に戻ります。
仕事力 = 経験 × AI倍率
経験10の人がAIを10倍に活用できれば、仕事力100。
一方、経験1の新人がAIを1倍にしか活用できなければ、仕事力1。
その差は100倍。
繰り返しますが、これは自分の考え方を説明するための仮説です。
しかし、この考え方には、これからの人材育成を考えるうえで重要な問題が含まれています。
経験者はAIによって、さらに仕事力を高められる。
でも、新人はその経験をどうやって積むのか。
AIが簡単な仕事を全部やってしまうなら、新人はどこで失敗し、どこで学ぶのでしょうか。
そこで必要になるのが、AIを前提にした新しい教育方法です。
人間が作業を繰り返して覚えるのではなく、AIの仕事を見て、考え、判断する経験を積む。
その教育自体もAIエージェントに任せる。
そして採用では、今できる仕事の量だけでなく、AIを使うことでどれだけ能力を伸ばせそうな人なのかを見極める。
さらに、会社側も、その人がAIを使って能力を発揮できる環境を作る必要があります。
AIを使いこなせる人を採用する。
AIを使いこなせる人を育てる。
そして、その人がAIを使って仕事力を伸ばせる会社にする。
この3つをセットで考える時代になってきたのではないでしょうか。
これまで自分は、AIでいかに人間の仕事をなくすかを考えてきました。
でも、その結果、将来の仕事ができる人間まで育たなくなったら困ります。
AIが仕事をする時代だからこそ、人間の仕事力をどう育てるかが、これまで以上に重要になる。
そんなことを最近考えています。
もっとも、自分は人材育成が得意ではないので、新人教育もAIに任せようと考えているわけですが。
参考資料
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