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EC事業者が、
AIエージェントについていけなくなった問題
最近、自分がやっているAIの取り組みを紹介していて、ちょっと気になっていることがあります。これ、普通のEC事業者にはついていけなくなってるんじゃないか?
自分が今やっているのは、AIエージェントを使って仕事をするというよりも、AIエージェントがうまく働けるための土台づくりです。
いわゆる「ハーネス」と呼ばれる部分です。
AIが仕事を理解し、適切な情報を使い、間違えずに動き、失敗したら立て直し、安定して仕事を続ける。
そのための仕組みを作っています。
ただ、ここまで来ると、もうEC運営の話ではなく、システム開発やエンジニアの領域になってきます。
自分はもともとWeb制作やシステム開発をやっていたので、まだ何とかついていけていますが、一般的なEC事業者が同じことをやろうとしたら、かなり厳しいと思います。
以前から「AIエージェントは簡単です。仕事を頼めば動いてくれます」と言ってきました。
それなのに、最近紹介している内容は、プログラム、データベース、サーバー、ネットワーク、セキュリティと、どんどん複雑になっています。
どこが簡単やねん、という話です。
なので、一度整理したいと思います。
EC事業者がAIエージェントを活用するために、本当にどこまでの仕組みが必要なのか。
まず、AIエージェントは仕事を頼むだけでいい
これは今でも考えは変わっていません。
AIエージェントに仕事を頼めば、調べ物をしたり、資料を作ったり、データを分析したり、パソコンを操作したりしてくれます。
これだけでも十分役に立ちます。
最初から複雑な仕組みを作る必要はありません。
むしろ、仕組みを作ることばかりに時間を使って、肝心の仕事をAIに任せられていないなら、本末転倒です。
ただ、実際に仕事を任せていくと、次の問題が出てきます。
- 毎回、会社のことや仕事の内容を説明しないといけない
- 必要な売上データや商品情報をAIが持っていない
- 以前に決めたことを覚えていない
- 担当する仕事や責任範囲が曖昧
- AIが何をやっているのか分からない
これでは、優秀なAIでも仕事の質が安定しません。
そこで、次の土台が必要になります。
EC事業者が最低限取り組みたい5つの土台
① コンテキスト
AIに会社のことを知ってもらうための情報です。
会社の方針、商品知識、顧客層、販売戦略、業務ルールなど。
例えば、うちであれば、自社の商品の販売について、どんなお客様を対象に、どんな考えで商品を販売しているのか。
こうした情報を持たせます。
同じ「母の日に売る商品を考えて」という指示でも、会社の事情を知らないAIと、会社のことを十分理解したAIでは、回答の質が変わります。
これは以前から記事にしている「AIに自分のことを知ってもらう」と同じ話です。
② データ収集
AIに判断させるための材料です。
ECであれば、売上、商品別の販売実績、在庫、広告実績、アクセス数など。
これらをAIが利用できるようにします。
例えば「来月はどの商品を重点的に販売するべきか」と相談する場合、実際の販売データを見られるAIと、一般論だけで回答するAIでは、まったく違います。
できればデータの取得も自動化したいところですが、最初は必要なデータを渡すだけでも十分です。
③ エージェントの役割設定
AIエージェントに、それぞれ担当業務を持たせます。
楽天担当、Amazon担当、広告担当、商品企画担当など。
担当業務だけでなく、何を目的に仕事をするのか、何を判断してよいのか、どこまでの操作が許されるのかも決めます。
人間のスタッフに仕事を任せるのと同じです。
担当も権限も曖昧なままでは、まともな組織にはなりません。
④ 記憶の管理
AIとのやり取りで決まったことや、仕事を通じて学んだことを、次の仕事に引き継ぐ仕組みです。
AIと何時間も打ち合わせをして、ようやく方針が決まった。
ところが翌日、新しいセッションを開くと、また一から説明しなければならない。
これでは困ります。
決定事項、業務マニュアル、過去の失敗、改善した内容などを保存し、必要なときにAIが参照できるようにします。
単に大量の会話履歴を保存するのではなく、何が現在の正しい情報なのかを整理することも大切です。
⑤ エージェントの行動の可視化
AIが何をしているのか、把握できるようにします。
仕事を頼んだけれど、本当に作業しているのか。
途中で止まっていないか。
何を変更したのか。
仕事は完了したのか。
こうしたことが分からないと、安心して任せられません。
さらに進めるなら、AIが使った費用と、実際に出した成果まで分かるようにしたいところです。
人間のスタッフと同じように、仕事の結果を評価できる状態を目指します。
この5つが、AIエージェントに継続して仕事を任せるための基本的な土台だと考えています。
ここまでは、必ずしもエンジニアでなくても取り組めます。
AI自身に手伝ってもらいながら、少しずつ整備していけばいいと思います。
ここから先は、エンジニアの領域
問題はここからです。
AIエージェントをもっと多くの仕事に使いたい。
24時間、自動で仕事をしてほしい。
複数のスタッフが利用できるようにしたい。
会社全体の業務をAIに任せたい。
そうなると、さらに別の土台が必要になってきます。
セキュリティ対策
AIがアクセスできる情報や、操作できる範囲を管理する必要があります。
顧客情報や売上データを扱うなら、なおさらです。
基本的な情報管理は最初から必要ですが、複数のシステムを接続し、自動操作する範囲が広がるほど、専門的な対策が必要になります。
バックアップ
AIが重要なファイルを間違って消したり、書き換えたりする可能性があります。
データの保存だけでなく、問題が起きたときに元に戻せる仕組みが必要です。
最初は簡単なバックアップでもいいですが、本格的に業務を任せるなら、自動バックアップと復旧の確認まで必要になります。
完全自動化と安定動作
人間が毎回指示しなくても、決められた仕事を自動で行う。
途中でエラーが起きても、原因を確認して再実行する。
失敗を検知して、必要に応じて処理を停止したり、復旧したりする。
こうした仕組みです。
一度動くプログラムを作ることと、毎日安定して動く仕組みを作ることは、まったく別の仕事です。
多人数・複数エージェントの利用
複数のAIエージェントを動かし、複数のスタッフが利用する環境を作ります。
誰がどのエージェントに指示できるのか。
複数のAIが同じデータを変更しても大丈夫なのか。
AIが覚えた情報を、どこまで共有するのか。
複数のパソコンから、同じAI担当者を利用できるようにするにはどうするのか。
こうなると、単にAIを使う話ではなく、会社の情報システムを設計する話になります。
ネットワーク・サーバー管理
自社のパソコンやVPS(外部の仮想サーバー)で仕組みを動かすなら、ネットワークやサーバーの管理も必要になります。
ただし、これはすべての会社に必要なわけではありません。
クラウドサービスを利用すれば、自社でサーバーを管理せずに済む場合もあります。
自分たちが何を実現したいかによって、必要な技術は変わります。
社長1人で使うなら、そこまで必要ない
ここが今回一番伝えたいところです。
例えば、社長1人がAIエージェントを駆使して、ECの仕事をどんどんこなしていく。
こういう使い方であれば、最低限の土台を整えるだけでも、相当な仕事ができます。
セキュリティやバックアップの基本は必要ですが、最初から大がかりなシステムを作る必要はありません。
自分が最近やっているような、複雑な仕組みづくりまで取り組まなくてもいいと思います。
むしろ、そこまで作り込んでも、かけた時間や費用に見合う成果が出るとは限りません。
AIを使って仕事を減らしたいのに、AIの管理という新しい仕事を大量に増やしてしまったら、何のために導入したのか分からなくなります。
全社でAIエージェントを使うなら、話は変わる
一方で、会社全体でAIエージェントを活用するとなると、話が変わります。
複数のスタッフがAIを使い、複数のAIエージェントが仕事を担当する。
さらに、受注処理、在庫管理、広告運用、商品登録など、実際の業務をAIに任せていく。
ここまで来ると、AIは単なる便利な道具ではなく、会社の業務を支える仕組みになります。
当然、会社として管理する必要があります。
自分は、全社で本格的にAIエージェントを活用するなら、AIの管理責任者を必ず置くべきだと考えています。
最初は兼任でもいいと思います。
ただ、AIエージェントの数が増え、自動で動く仕事が増えてきたら、専任の担当者が1人は必要になるでしょう。
そして、その担当者だけで技術的な問題に対応できないのであれば、知見のある外部のエンジニアや専門家のサポートを受ける。
社内にすべての技術を持つ必要はありません。
ただし、会社として何を管理しているのか、誰が責任を持つのかは明確にしておくべきです。
一番危ないのは、社員が勝手にAIを使いまくっている会社
自分が特に危ないと思うのは、AIの導入を積極的に進めているのに、会社側が何も管理していないケースです。
社員がそれぞれAIエージェントを使い、自由に仕事をさせている。
それ自体は悪いことではありません。
むしろ、社員が積極的に新しい技術を使うのは良いことです。
でも、会社が把握していないところで、AIに社内データを渡したり、業務システムを操作させたり、プログラムを変更させたりしているとしたら。
これはかなり怖い話です。
例えば、社員が便利だからとAIに顧客データへのアクセスを許可する。
別の社員は、広告の管理画面を操作させる。
また別の社員は、商品データを一括更新させる。
それぞれは仕事を効率化しようとしているだけです。
でも、会社はどのAIが何にアクセスできるのか、誰が何を変更したのか、問題が起きたらどうやって止めるのかも分からない。
これでは管理できているとは言えません。
さらに怖いのは、AIが間違った操作をした場合です。
価格を間違えて更新する。
商品データを大量に消す。
広告予算を意図せず変更する。
顧客情報を本来送ってはいけないところへ送る。
実際にこうした事故が起こり得る以上、「AIが勝手にやりました」では済まされません。
社員それぞれが頑張ってAIを使っていても、会社全体では大きなリスクを抱えている可能性があります。
AIを自由に使わせることと、管理しないことは違う
では、社員のAI利用を制限すればいいのか。
そうではないと思います。
必要なのは、会社として最低限のルールと管理体制を作ることです。
まず、誰がどのAIを何の仕事に使っているのかを把握する。
どのデータを扱ってよいのか、どのシステムを操作してよいのかを決める。
重要な変更については、適切な確認や権限制限を設ける。
AIが実行した仕事を記録し、問題が起きたら追跡できるようにする。
そして、AIの仕組みそのものを変更できる人も、きちんと管理する。
誰でも自由に仕組みを変更できるようでは、安定した運用は難しくなります。
こうしたルールを整えたうえで、社員には積極的にAIを使ってもらえばいいと思います。
EC事業者は、どこを目指すのか決めたほうがいい
AIエージェントの活用には、大きく3つの段階があると思います。
第1段階:AIに仕事を頼む
まずはAIエージェントを使って、自分の仕事を手伝ってもらう。
特別な仕組みづくりは必要ありません。
第2段階:AIに継続して仕事を任せる
コンテキスト、データ、役割、記憶、行動の可視化を整える。
会社のことを理解したAIに、安定して仕事を任せるための土台を作ります。
社長1人で活用するなら、この段階でも十分な成果が期待できます。
第3段階:会社全体をAIエージェントで動かす
複数のAI担当者が、それぞれの業務を担当する。
スタッフもAIを利用し、AI同士も連携する。
仕事の自動化、監視、復旧、セキュリティ、権限管理など、会社全体の仕組みが必要になります。
ここからはエンジニアの領域です。
自社で技術者を育てるか、外部の力を借りるか。いずれにしても、きちんと管理できる体制が必要です。
自分が今取り組んでいるのは、主に第3段階です。
なので、最近の自分の発信を見て、「AIエージェントって、そんなに難しいのか」と思われているなら、それはちょっと違います。
AIエージェントを使うこと自体は、決して難しくありません。
ただし、会社全体の業務を任せ、安定して動かし続ける仕組みを作るとなると、まったく別の難しさがあります。
EC事業者が全員、エンジニアになる必要はありません。
まずはAIに仕事を頼んで、どれだけ役に立つか体験する。
そこから、必要に応じて土台を整えていく。
会社全体で使う段階になったら、管理体制と技術的なサポートを考える。
この順番でいいと思います。
AIを使うのが目的ではなく、AIに仕事を任せて、人間の仕事を減らすことが目的です。
自分もそこから始めたはずなのですが、最近はAIを働かせる仕組みを作る仕事で、かなり忙しくなっています。
人間の仕事を減らすために始めたのに、人間の自分が忙しい。
まだ道半ばです。
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